本当は『禁酒番屋』をやるつもりだった。ネタ下ろししたての演目は、その後続けて3回くらい高座に掛けないと噺がグリップできないままで休眠状態に陥ってしまう気がする。しかしこの演目も私の悪癖というか宿痾というか、どーしても長くなってしまうのだ。本来15分ないしはたっぷりマクラで20分、といったサイズのものだと思うが、本編だけで22~23分あるのですよ、私の場合。理由はよくわからない。侍の飲む様子の間を持たせ過ぎなのか。冒頭の地語りの部分を近藤と酒屋の番頭の会話にしたのがかえって仇となったのか。個人相談役・某に相談したところ、あるヒントをもらった。そこを改変してやってみたら、うむ、トントンとやれば16分まで縮められたぞ。よしよしよしと臨んだが、気になったのはサラクチで「小便」でよいのかという問題。どうしよう。今度は楽屋でがじら兄に相談。すると兄さんは、かつて某兄さんが『禁酒番屋』をサラクチで掛けたところ、某師匠に「それは真打のネタだよ」と小言を言われていたことを教えてくださった。その某師匠は今日ご出演されるではありませんか。あらららら。というわけで急遽変更して『野ざらし』か『庭蟹』か新作の『豆腐の佐藤』か。決めない状態で袖まで行くのは珍しい。前座さんの開口一番はやや苦戦の模様。20名以上のお客様の中には、すでにうつむいてらっしゃる方も。『野ざらし』の勢いで起こしにかかるか、新作の『豆腐の佐藤』で何これ?と思わせるか。悩んだ末にじんわりとこっちに引き込む作戦で『庭蟹』を。マクラは時事ネタでジャブ。冒頭三分の一はぐっとこらえて淡々と。茶碗と羊羹あたりから間を大きくとって、さぁさぁこっちへ来ぉい、こっちへ来ぉい――。旦那の怒りをいつもより大きい声にして、ま、ここで完全に目覚めて頂けたかなあ。オチはちゃんと伝わったと思う。『庭蟹』はマニアックな場でしかウケないと思っていたが、今年に入ってから何だか寄席でもウケるようになった。ちょっと胸を張らせてもらおう、これはもう寸志の代表作だ。今季なんらかのコンテストに出場する機会が出来たら『庭蟹』で勝負だな。大丈夫、いつも長くなるけど10分にする秘策はすでに思いついておるのだ。ぬはは。で、この『庭蟹』を、6/18土曜日両国亭で、笑二兄さんが初演します。さーあ、どう変えてくださるんだろう。愉しみ!